完全自動運転車両の技術開発およびその社会実装に向けた研究を実施し、地域・産業界に貢献

遠隔空間プロジェクト

遠隔空間部門:テレスペースプロジェクト(計画中)

 このプロジェクトは現在計画中のプロジェクトで、遠隔地の空間をそれとは異なる場所に存在しているように人間に知覚させる技術、テレスペース技術を開発します。歴史的に見ると、電話(telephone) によって遠隔地の音響が異なる場所で再現できるようになりました。テレビ(television) の技術により、ある場所での視覚的な情報が異なった場所に送れるようになっています。テレスペース(telespace) 技術は、人間に空間そのものの存在を知覚させるのに十分な情報を伝達し、別の場所で空間を再現することを目指します。

 テレスペース技術を開発する背景には以下のことがあります。現在日本社会で進行している少子高齢化は社会の様々な側面で問題を生じつつあり、地方の村では人口減少のため様々な社会的サービスが受けづらくなっています。例えば行政では窓口業務を行う機関をそのような人口の少ない地域に設けることができないため、そこの住民は行政サービスを受けるために市庁や県庁のある街まで出向かなればなりません。また銀行に関しても同じことが言えます。銀行での手続きをするために、少なくとも支店のある街まで出向くことが必要になっています。この問題に対して移動銀行窓口車という車両を使った移動窓口サービスが行われる場合もありますが、この運行にも手間と時間とコストがかかる上、車両が来たときにしかサービスを受けられません。そこでテレスペース技術を利用して遠隔の窓口を設置すればこのような問題が解決されます。窓口の向こう側は実は遠隔空間なのですが、テレスペース技術によって、対応している人が本当に窓口の向こう側に居るように感じられるようにします。これならば住民にとってはリアルな窓口へ出向いたのと変わらないはずです。また窓口業務には本人確認の作業がありますが、それは指紋や虹彩認識などの生体認証技術によって対応可能です。

 テレスペース技術が進化し、窓口よりもより広い空間の遠隔再現が可能になれば、教育の現場にも利用できると考えられます。現在過疎地域の高校の統廃合が進んでいます。少子化により生徒数が減少すればそれに応じて教員数も減らさなければなりません。そうすると高校教育を成り立たせるのに十分な科目数の授業を提供できなくなり、学校を存続させられなくなります。しかし、もし一人の先生が一つの高校に居ながらにして多くの高校に “リアル” な授業を提供できるとしたらどうでしょう。もちろん学校教育は授業の教科数だけで議論できる問題ではありませんが、少なくとも教科数の問題に関しては改善されるはずです。

 以上のことを可能にするためには、遠方の空間がこちらの空間とシームレスにつながっていると人間に知覚される映像・音響が提供できなければなりません。ただ相手の顔が見え、音声で会話できるだけで十分ではありません。相手がそこに存在していて直接会って話をしているという感覚が生じなければテレスペース技術として全く不十分です。これを可能にするための技術要素として以下のものが考えられます。

視覚的な品質

 まず画像として十分に高品質あることが必要です。さらに遠方空間と現空間が幾何学的(geometry) にも光学的(photometry) にも整合していること重要です。幾何学的整合性とは、例えば現空間での壁が遠方空間の再現空間でもシームレスに同じ方向に伸びていること、光学的整合性とは、両空間が同じ照明で同じ方向から照らされていると知覚されることです。幾何学的整合性は人間の視線の位置に直接依存するので、頭部の位置・方向検出なども重要な課題になります。

音響的な品質

 音響伝達に関しても十分な音質が必要とされます。また音源の方向性や残響など、音響条件も両空間で整合性を持たせる必要があります。また音声の伝送では効率化のため無音時のデータ伝送を停止することがありますが、これをそのまま再生するとバックグラウンドノイズが消えた不自然な感覚を引き起こします。このような場合には適切なノイズを付加するなどが必要になるかも知れません。本プロジェクトではこのような点まで着目して”リアル”な空間の再現を追求します。

リアルタイム性

 通信速度に関しては遅延が十分に少なく、人間の自然なコミュニケーションを妨げないことが必要です。この点に関しては第5 世代移動通信システム(5G) が導入されてきており、環境は整って来ていると思います。

 最後に、なぜ以上のようなプロジェクトを次世代の移動手段を研究する次世代モビリティ社会実装研究センターが行うかですが、人々が交通手段によって移動する目的を考えれば明らかです。その目的は人に会うためであったり、用事を済ますためであったりしますが、更に根本的には異なる空間に自分を置くためです。したがって等価的にそれが達成できれば一種の交通手段と見なしても良いのではないか、と我々は考えました。テレスペース技術によって空間が向こうからやって来ます。究極のモビリティは移動しないことなのです。

 最初にも書きましたが、テレスペースプロジェクトは現在計画中のプロジェクトで、共同研究先を募集しています。このプロジェクトに興味をお持ちいただける皆様は、是非ご連絡いただけると幸いです。

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