NNCコンセプト

NNC NNCは車幅が狭い(Narrow)、近くの移動を目的としている(Near)、他の交通の流れを妨げない(Current)、という特徴を持つ車両による交通手段に付けられた名前で、東京大学の研究員で本センターの研究員でもある久保登氏によって提唱されているコンセプトです。NNCの文字のそれぞれには次のような考察があり ます。

N (Narrow 車幅が狭い)

 交通機関の性質を最も明確に決定するのは、その幅であるという解析があります。移動体の長さが少々異なっても、幅が一緒であれば、その移動体が出発地から目的地まで移動する時に通過する空間は同一になります。そのため、ある交通機関に必要なインフラや使い道は、それに用いる移動体の幅に左右されるのです。列車が車両を多数連結することにより、同じ線路を使って輸送力を調整できるのも、タンカーがスエズ運河を通過して近い経路を選択できるのも、それらの長さではなく幅がインフラに適合するからです。一般の道路を通行する車両も同じで、長さ方向は多少変わっても車幅が狭ければ、狭い道ですれ違うのも容易ですし、畑のあぜ道や山の森林の中にも入って行けます。小型車両でも幅の広い車体ではこれは不可能です。すなわち、車両の幅が狭いことが本質的だという考えです。

N (Near 近くの移動を目的とする)

 首都圏を別にすれば、現在近隣の移動を目的として最も利用されている乗り物は軽自動車ですが、軽自動車は高速道路を利用でき、全国どこへでも行けるだけの能力を持ちます。しかし実際は家を中心とした半径数キロの範囲で利用されている現実は、近隣の移動に適した車両が無いので、次善の策として軽自動車が利用されていると考えられます。近隣の移動には、本来はそれに適した車両を使用すべきです。
 なおNNC車両としてEV(電気をエネルギー源とする車両)を採用することは、環境への配慮を超えて、NNC車両がパーソナルビークルであることと本質的な関係があります。まずエネルギー密度の視点から考えてみます。重量あるいは体積あたりのエネルギーを電気(バッテリー)とガソリンで比較した場合、ガソリンの方が圧倒的に大きいのです。これは車両が長距離、長時間を走ることを目的としたものならば重量の軽いガソリンが有利です。しかし近距離短時間の移動ならば相対的にこの欠点は小さくなり、実用上問題では無くなります。次にエネルギー補充に掛かる時間も重要な特性です。ガソリンスタンドでガソリンを補充する時の給油ホースを流れるガソリンと、充電中のEVの充電ケーブルに流れる電気エネルギーでは、エネルギーの流量はガソリンの方がEVより数千倍大 きいのです。ガソリン補充は数分程度あればできますが、EVを充電するには少なくとも一時間程度はかかります。営業車のようにできるだけ休ませないことを要求される車両では、充電時間は損失になるのでEVは不利です。しかし自家用車でしたら通常は夜間を通して家にありますから、この時間を充電の時間に当てれば問題にはなりません。更にはガソリンスタンドの問題に関してもEVが 有利です。過疎地では利用者の減少からガソリンスタンドの廃業の問題が生じています。ガソリンを利用する車両でしたらこれは問題ですが、家庭用電源で充電できるEVならば問題にはなりません。

C (Current 他の交通の流れを妨げない)

 本来のNNCコンセプトでのCの意味は、通常の自動車と同じ程度の速度で走行し、交通の流れに乗るとことで安全性を担保するという意味です。都市郊外や 過疎地などの片側1車線道路では、現状では低速車両が走ると、どうしても一般の車両の追越しが発生して交通流を阻害することになります。中山間地の県道などでも、時速20km未満の低速車であれば1分に1回程度は後続車に追いつかれることが珍しくありません。センターラインが黄色い区間では、低速車が完全に停止して道を譲らないと交通ルール的に問題があり、例えば10分間走行するのに10回停止して後続車をやり過ごす、というような乗り方はなかなか難しいのが実態です。したがって自動車による交通を乱さないためには、自動車と同じ速度で走ることが必要になります。
 しかし通常の自動車による交通を阻害しないことが目的であれば、他の方策も考えられます。CRANTS NNCプロジェクトでは低速の車両を利用することも想定していますが、その場合には既存の車両と走行地域を分ければ目的を達成できます。また通常の自動車と並走する場合にも、車幅が狭いことを利用して通常の自動車が容易に追い越せるならば問題にならないと考えられます。CRANTS NNCプロジェクトではNNCのC(Current)をこのような意味で、すなわち何らかの方策で他の交通を阻害しないという意味で使用しています。