CRANTS NNC プロジェクト

プロジェクトの背景と目的

 群馬を始めとする地方では、自動車が日常生活で欠かすことのできない交通手段として利用されています。しかし高齢になると一般の自動車の運転が難しくなり、事故を起こす可能性も増えてきます。そのために免許証の返納が推奨されていますが、免許証を返納してしまうと生活に必要な移動手段が奪われてしまい、生活の質(Quality of Life)が低下するという問題が生じます。したがって通常の自動車が運転が困難になった場合、それに代わる交通手段を確保することが重要になってきます。
 人間が運転しなくても良い自動運転自動車が実用化されれば、確かにこの問題への解になります。当センターでは自動運転の研究も行っていますので、そのような期待を寄せられることが多いですが、近未来的にはこれは難しいと考えています。本センターの自動運転は、走行路線を限定することにより、その実現性を高めています。具体的には路線バスの自動化です。しかし高齢者の免許証返納に付随して実現しなければならないのは、不特定多数の方の利用を前提とした路線バスではなく、例えば自宅から畑やスーパーマーケットあるいは病院と言ったその人それぞれ特有の経路の移動です。自分一人のためにバス路線を引くのが困難であることが想像されるように、自動運転になったとしても個人のためだけにバス路線を引くことは現実的ではありません。
 我々は高齢者の交通手段確保の問題に対して、高齢者になっても容易に安全に運転でき日常生活で利用できる乗り物を開発することが現実的な解になると考えています。CRANTS NNC プロジェクトではこのような乗り物を開発します。この目的に適した乗り物として、まずはNNCコンセプトに沿った乗り物を出発点に考えています。NNCコンセプトを以下に説明します。

NNCコンセプト

 NNCとは、車幅が狭い(Narrow)、近くの移動を目的としている(Near)、他の交通の流れを妨げない(Current)、という特徴を持つ車両による交通手段のことです。詳細については こちら をご覧ください。現在市販されている車両では、トヨタ車体のコムスがこのコンセプトに近い車両です。本来のNNCコンセプトは高齢者の運転のみを目的としたものではありませんが、我々はこのコンセプトの高齢者の交通手段としての適合性を検証して行きます。それでプロジェクトの名前も当センターの英語名をNNCの前に付けて CRANTS NNC プロジェクトとし、本来のNNCより狭い意味で用語を用いていることを示しています。

トヨタ車体 コムス

プロジェクトの概要

 まずはプロジェクトで購入したコムス(3台)を、免許返納を考えている高齢者の方に使っていただき、自動車よりも安全にかつ効率的に日常の移動が実現できるかを実験することを計画しています。そしてその実験を通して問題点を洗い出し、車両を改良します。この過程を繰り返すことでより目的に沿った車両にして行きます。また車両の開発のみならず、それらを高齢者の生活の中でどのように利用するのが有効か、また地域社会の中でどのように認知させていくかと言った社会的な側面もこのプロジェクトの重要な研究課題です。実験を通じてこれらに関する知見も得て行きます。
 実験を行う地域は選定中ですが、群馬県の都市周辺地域と山岳地域を予定しています。また実験を行う際、以下に示すいくつかの特徴的な視点を持って実験を進めます。

使用者も開発メンバー

 一般に車両を開発する場合、使用者は使用者としての立場で意見を言い、開発者がその意見を考慮して改良を行うというやり方が一般的であると考えられますが、本プロジェクトでは使用者も車両開発チームの一員として位置づけ、 自ら解決策を考案していただくなど、開発する技術者と密接な関係を持って開発することを考えています。例えば自動車の開発でもF1のようなレースカーはこのような開発がされていると思います。本プロジェクトでもこれを見習います。

積極的なADAS機能の導入

 高齢者の認知・判断・操作機能を補助するのに、近年の発達したセンサ・ 情報通信技術(ICT)を積極的に利用することを考えます。すなわち高度運転支援システム(ADAS)の積極的な導入です。

医学的知見の活用

 高齢者ドライバーの運転能力を適切に補助し、容易な運転を可能にするため には高齢者の身体能力の衰えを正確に解析する必要があります。また個人差の問題もあります。ある人には有効な運転補助も、他の人には有効な補助ではないかも知れません。高齢者の身体能力を医学的に研究している研究者の協力を得て、学術的な視点からもこの問題に取り組むことを考えます。

新しい使い方の提案

 高齢者用の新しい車両を開発する場合、その車両は従来から使用されてきた軽自動車との比較で評価されがちです。本プロジェクトではそのような視点に立たず、自動車とは異なる独自の乗り物であるという視点から、軽自動車ではできないより便利な使用法まで含めて提案し、実験することを考えています。 たとえば
1. 車両を玄関に入れて駐車することにより、雨の日も濡れずに外出でき、家の空間が移動する感覚で使用する
2. 車両が畑のうねに入れるように畑を作り、農作業を車両からでも行えるようにする
3. 山間地での作業があれば、森林の中の作業も車両を入れてできるようにする
などを考えています。

まちづくりも含めた設計

 交通の問題は街作りの問題と密接に絡みます。近年住宅地ではゾーン30という地域が作られていますが、本プロジェクトでは車両の開発のみを考えるのではなく、このような低速ゾーンの考え方を積極的に利用することも検討します。 低速ゾーンを生活圏全体をカバーするように設定し、その中で使用するのに最適な車両を開発するという考え方です。このような使用条件ならば車両の大きさも小さく、重量も軽いものでも十分な安全を確保できます。さらに通常の自動車が多く走る主要道を通らずに近隣の目的地に行けるルート(低速ゾーンの みを通過するルート)を指示するカーナビの開発も視野に入れています。以上 の方針は地方都市の周辺地域(下図:地方都市周辺の例を参照のこと)のように、ある程度広域に道が整備されているが幹線を除けば車両交通が少ない地域にしていると考えられます。

地方都市周辺の例 (桐生市梅田町) Google Map より (赤線が主要道)

 一方山間地域など(下図:山間地域の例を参照のこと)では上記の低速ゾーンの設定が現実的ではない場合があります。ここでは川沿いに一本の主要道が走り、その両側に街が形成されています。そしてその主要道から左右に分岐する形で住居につながる細い道が伸びています。主要道には通常の自動車が走行し ていることから低速ゾーンは適切に設定できません。この場合には、ある程度 従来の自動車と混在して走るという条件下で、安全性を考慮しなければなりません。この場合には新素材を用いて軽量かつ強度のシャーシを開発することも重要になると考えています。

山間地域の例(群馬県南牧村) Google Map より (赤線が主要道)

新しい素材の活用

 万が一の場合の乗員の安全を考えると、車体に十分な強度を確保することは重要です。これは CRANTS NNC プロジェクトが想定しているような小型の車両ではクラッシャブルゾーンが取りにくいことから、特に考慮すべきです。また相手に与える損害を最小限にすることを考えると、車体が軽量であることも重要になってきます。そのために強度に優れた軽量最新の素材であるCFRP(炭素 繊維強化プラスチック)を使用したシェル構造の車体を開発し、標準車体として一般に公開することも考えています。

プロジェクトの現状

CRANTS NNC 関連情報

 CRANTS NNC プロジェクトに類似の、あるいは関連した様々な活動が他でも行われています。以下にそのいくつかについて記します。

NNCモビリティ

 NNCモビリティという団体がNNCコンセプトに沿った車両を開発・ 量産する計画を進めています。ホームページは作成中とのこと、完成次第、本ペ ージでも紹介します。

とよたの里モビLIFEプロジェクト

 豊田市足助地区・旭地区で行われているプロジェクトで、山間地に住む高齢者の移動手段としてコムス、あるいはそれを改造した車両の有効性を検証して います。CRANTS NNC の目的と非常に近い所にあり、参考にさせていただいてい ます。ホームページは こちら です。

リモノ (rimOnO)

 小型・低速で、柔らかなボディを持つ車両を近隣の交通として使用しようという提案と、それに適合した車両の開発がリモノという名のもとに行われまし た。この車両は必ずしも高齢者の運転を想定した車両ではありませんが、NNC と類似のコンセプトと考えられます。開発した車両に対して、使用したいという要望が多く寄せられたようですが、残念ながら現在は開発が中断されてます。 ホームページは ここ にあります。

超小型モビリティ

 必ずしもNNCのように車幅が狭い特徴は重視していませんが、一般的な自動車よりも小型で、近隣の移動に適した車両のコンセプトが超小型モビリティとして提案され、法制度も整備されています。国土交通省の超小型モビリティに 関するページは ここ です。本プロジェクトで利用しようとしているコムスも、このカテゴリーの車両に属します。