完全自動運転車両の技術開発およびその社会実装に向けた研究を実施し、地域・産業界に貢献

超小型電気自動車の走行試験と電力消費量および CO2排出量評価

超小型電気自動車の走行試験と電力消費量およびCO2排出量評価

2020年からCRANTSで行っているナローモビリティのプロジェクトの一環で、コムスを使って桐生市内で走行試験を行い、消費電力量からCO2排出量を評価しました。以下に結果を示します。

緒 言

 近年、環境への配慮からガソリン自動車から電気自動車へのシフトが求められている。現在大手自動車メーカーは乗用車ベースの電気自動車を次々と開発しているが、この一方で、超小型電気自動車(以下超小型 EV)も注目され始めている。現在の日本では高齢化が進んでおり、生活圏が狭い人が増えている現状がある。こういった人々が超小型EVに乗り換えることでCO2排出量を削減できる可能性がある。本研究では、汎用の超小型EVを用いて山間部と都市部でそれぞれに走行実験を行い、速度データと電力量消費を求める。これをもとに現在実用化されている電気自動車に比べて、消費エネルギーやCO2排出量がどの程度削減できるかを評価した。

実験装置および方法

 図1に実験で用いた超小型EVの概略を示す。車両本体にはデータロガー、GPS、ドライブレコーダーを設置した。また、電力量計を用いて充電電力量の計測を行った。実験に使用した車両はトヨタ車体製COMSである。データロガーとGPS、電力量計はそれぞれ汎用のものを使用した。

 実験に先駆けて群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センターのテストコースにおいてテスト走行を行った。図2にテストコースの図面を示す。このコースの中央線部分をまたぎ、一定の速度で走行することで車両に搭載した計器類が正確な値を取得できているかを確かめる予備実験を行った。走行実験は桐生市内の市街地と山間部で日常的な走行を行ったほか、桐生市内の市街地と山間部それぞれに定めたモデルコースを走行した。日常的な走行のデータ収集は2名に生活の主な移動手段として一定期間利用してもらった。走行1回当たりの走行時間、停車時間、走行時間全体に占める停車時間の割合、平均速度、速度の最大値を計測し、それぞれの平均値について比較を行った。また市街地での走行については充電電力量を記録したため、そこから1kWh当たりの走行距離(以下電費)と二酸化炭素排出量を算出した。二酸化炭素排出量を評価するにあたって東京電力が発表している2020年度の原単位を用いて1kWhの発電当たり0.441kg-CO2(1)を排出するとして計算を行った。モデルコースの実験で使用したコースとして市街地のコースを図3に山間部のコースを図4にそれぞれ示す。この実験では、速度データ、GPSデータ、充電電力量データをそれぞれ計測した。

実験結果および考察

計測機器の正確性

 図5に群馬大学次世代モビリティ社会実装センターのテストコースで走行を行った際にジャイロセンサーで取得した回転角度のグラフを示す。図2の図面より、各カーブの角度は90°であるので、ジャイロセンサーはおおよそ正確な値を取得していることが確かめられた。図6に同様に取得した速度データを示す。テスト走行ではできるだけ一定速度でテストコースを周回した。この走行では10km/hで走行を行ったため、速度データでもほぼ10km/hの値となっている。

日常走行の分析結果

 表1に走行データを示す。各数値は全て1回の走行についての値を平均したものである。日常走行の市街地でのデータは102回分、山間部でのデータは74回分の走行記録を使用した。また、モデルコースはそれぞれ5回分の走行記録を用いた。市街地と山間部を比較すると、市街地のデータは山間部のデータに比べ、停車時間の割合が約1.5倍の値になっていることが分かる。これは山間部の方が市街地と比べて信号機が少ないため停車時間の割合が減少したと考えられる。

モデルコース走行の分析結果

 図7、図8にモデルコース走行時の市街地と山間部での速度データの例を示す。市街地コースでは停車回数が多いが、山間部コースではほとんど停車せずに走行していることが分かる。表1より、1回の走行の平均速度についての比較を行うと、市街地コースと比べて山間部コースの方が約10km/h大きいことが分かる。これは山間部ルートでは信号が少ないため速度が変化せず、法定速度付近で走っていたためだと考えられる。また、山間部コースでは制限速度が50km/hである区間が存在するため、制限速度が常時40km/hの市街地コースに比べて平均速度が大きくなる要因になったと考えられる。表1より電費は市街地が山間部に比べて大きくなっていることが分かる。図9、図10に市街地と山間部での標高データの例を示す。山間部の方が市街地よりも標高差が大きいことから、車体持ち上げるためにエネルギーを要したことが電費を変化させたと推察される。また、下りでは回生ブレーキが働くが、回生効率が100%ではないため、その分電費が悪化したと推察される。

二酸化炭素排出の比較

 電気自動車の例として日産リーフの電費を用いる。日産リーフの電費はカタログ値のWLTCモードで7.39km/kWhであるため、東京電力の原単位を用いて、1kmあたり、約59.7g-CO2を排出していると計算することができる。COMSはモデルコース走行時の実走行データと原単位からCO2排出量を計算する。市街地では平均37.7g-CO2、山間部では平均62.3g-CO2の排出量となった。以上を比較すると、山間部走行では汎用の電気自動車と同程度であるが、市街地走行ではCOMSは汎用の電気自動車よりも二酸化炭素排出を抑えることができていることが分かる。この結果の主な要因として、COMSは汎用の電気自動車と比較した場合に車両重量が小さく、走行に要するエネルギー量が少ないことが挙げられる。

結 言

  1. 山間部に比べて市街地走行の平均速度は低くなる。また、停車時間は市街地が山間部に比べて大きくなる。これは制限速度の差異と、信号などによる停止時間に起因する。
  2. 電費には走行経路の標高差が大きく影響する可能性がある。
  3. 汎用の電気自動車(WLTC モード)と比べCOMSはCO2排出量を抑えることができる。今回走行した市街地ではCO2排出の減少が確認できた。

参考文献

  1. 東京電力ホールディングス株式会社、CO2排出量・排出原単位と販売電力量、2020:
    https://www.tepco.co.jp/corporateinfo/illustrated/environment/emissions-co2-j.html (参照 2021 年2 月9日)

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本内容は、群馬大学大学院理工学府 知能機械創製部門 流体理工学研究室(天谷・矢野研究室)の草間將督君による研究をまとめたものである。2022/04/01
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